砺波平野から立山連峰の眺め
“冬来たりなば 春遠からじ”

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8 越中八尾おわら節

2005年3月

春の奥飛騨・雪景色

<越中八尾へ>

きれいに除雪された北陸自動車道を小杉インターで降り、婦中町を経由して八尾町を目指す。昔は毎月のように車で徘徊していたから馴染みの道ではあるが、ずいぶん道路が立派になっていて、旧日のでこぼこ道の面影はない。雪もなく快適なドライブだ。いくつかの小さな峠を越えて川沿いの道に出た。



越中八尾を流れる井田川

越中八尾町はもうすぐそこだ。

さて昼食どきであった。地方都市の町域では、場所を間違えると昼食の食いっぱぐれにあう。
 
駅の近くなら食堂はあるだろうという憶測で八尾の駅を目指した。・・・・・あった、あった。駅前に2軒の店が目に入った。さっそく駅の駐車場に車を停め、昔からやっていそうな店を選んで暖簾をくぐった。

隣で地元のおばさんが立派なおにぎりをぱくついていた。大振りな握り飯に削り昆布をまぶしてあるのは、以前富山駅近くの居酒屋でお目にかかったのと同じで、おいしそうなおにぎりだ。
 
この削り昆布は関西のものだろう。東京ではなかなかお目にかかれない。江戸時代の北廻船の置き土産だろうか。函館あたりから船積みされた上質な昆布が上方の熟練職人の手で薄く削られ、逆コースをたどる途中に、日本海沿いの湊で荷おろしされ、定着した。確認したわけではないが・・・そう思った。

わたしたちは煮魚定食をいただいた。寒かったので温かい味噌汁が欲しかった。

食事をしながら、新聞を読んでいた隣のおじさんに軽い気持ちで聞いてみた。
 
「あのー、風の盆のことですが、踊りを見せてくれるようなところはないのですか、記念館のようなところでもいいのですが?」

踊りを、休日にどこかで見せてもらえるという記事に、記憶があった。はじめから予定していたわけではないが、そのことを急に思い出した。
 
内心(なんとかならないだろうか!?)と期待し始めている。

「きょうは、やってるんかな?観光会館でやっていると思うが。たしか・・・1時ごろからかなあ?」不確かそうだが、おじさんは親切にも店の方に質してくれた。戻ってくると、「きょうは土曜日だから、祭会館で1時半からあるそうだ!」と期待した答えが返ってきた。

さあ、いそげ!今ならぎりぎり間に合う!




<観光会館の踊り>

場所を聞き出して、うろ覚えの街中を疾風のように走った。道を間違え、いらいらしつつ、やっと「越中八尾観光会館」にたどり着いたときすでにその舞台は始まっていた。

息せき切らして扉を開けるとすぐに、あの懐かしい越中「おわら節」の音局が耳に入ってきた。
 
やっと席に落ち着いて、踊り舞台を眺めることができた・・・ハーフー、ハーフー・・・。

あでやかな和服を身につけた女性が、優雅に解説をしている。笑顔も豊かで、ゆったりした語りは自信に満ちている。



編み笠で顔を隠すのは女性のたしなみ?
なんとも優美で絵になっています

「おわらには三通りの踊りがあります。」

「“女踊り”は“四季踊り”ともいわれ、春夏秋冬それぞれに異なった所作があります。」

「次に踊りのシルエットが案山子(かかし)に似ていることから“かかし踊り”ともいわれるのが、“男踊り”です。勇壮な踊りです。」

「そしてもうひとつは、秋に行われる風の盆の町流しで踊る「豊年踊り」です。これは町中で輪を作って踊ることが多く、素朴な踊りでもあります。」

一通り説明が終わってから、踊り手さんたちが舞台を下りて観客席の前で「輪踊り」を始めた。
 
「よろしければご一緒に参加してください!初めての方でも結構ですよ!」とお呼びがかかった。しばらく見ていたが自分にもできそうである。わたしは突如意を決して輪の中に入った。

前のかたの踊りを見よう見まねで真似してみたが、これがなかなか難しい。
 
緩やかな手足の動きだから、なんとかこなせるのではないかと高をくくって参加したのだが、自分の踊りはぎこちなくて周りについていけない。一人だけ輪(和)を乱してしまった。

踊り手の皆さんの優雅な動きの裏には、日常のたゆまぬ訓練があるにちがいありません。


<♪ 囃子のこと ♪>

何年か前9月の本祭りを拝見したときにも感じたのは、囃子言葉の優雅さと内容の濃さ。ちょっと抜粋してみたい。

・・・越中で立山 加賀では白山 駿河の富士山 三国一だよ

・・・唄われようー わしゃ囃す

・・・八尾よいとこ おわらの本場 二百十日を オワラ 出て踊る

・・・竹になりたや 茶の湯座敷のひしゃくの柄の竹に

・・・いとし殿御に持たれて 汲まれて 一口 オワラ 呑まれたや

(春) ゆらぐつり橋 手に手をとりて 渡る井田川 オワラ 春の風

(夏) 富山あたりか あのともしびは とんでいきたや オワラ 灯とり虫

(秋) 八尾坂道 わかれてくれば つゆかしぐれか オワラ はらはらと

(冬) もしやくるかと 窓押しあけて 見れば立山 オワラ 雪ばかり

歌詞はおおらかで素朴で、男女の恋物語を歌っているようでもあり、おわらの若者はこんな囃子を背景に踊って育つのだから、たくさんの恋愛が生まれないはずがない。囃子はさらにつづく。

・・・見たさ逢いたさ 思いがつのる 恋の八尾は オワラ 雪の中

・・・おりて行きやれ 夫婦の雁よ 越中田もよし オワラ 水もよし

高橋治氏の小説「風の盆恋歌」もこの囃子をそのまま筆写したように誕生した。

わたしとしては、

 ・・・見送りましょうか 峠の茶屋まで 人目がなければ あなたの部屋まで

上のせりふで見送ってほしかった。
 
 そろそろ午後の日差しが斜めに傾くころ、懐かしい諏訪町や上新町の町並みをあとにしたのでありました。

<続く> 「エピローグ」


 「奥飛騨温泉郷」へ  |  2000年9月に体験した「風の盆」


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