時ならぬ大雪から開放された2005年3月のある日
神の住まいし銀嶺を見た


奥飛騨温泉郷
新穂高温泉と西穂高の秀峰

西穂高


 <西穂高の山>


白い山嶺に雲が舞い上がる。次から次へととどまることなく雲は流れ、一瞬たりともじっとしていることはない。強い風に乗って谷から湧き上がり、尾根を走る。北アルプスの高嶺を吹き晒した雪雲は上高地に吹き下りる。山の上は人間が耐えられないほどの風が吹いているに違いない。そんな厳しい自然の動きがこの展望台から手に取るように望遠できる。すさまじい自然の威力だ。

雪の衣をまとった西穂の山嶺は悲しくなるほど美しい。周囲から聞こえてくる声も感動のため息ばかり。息を呑む美しさとはこのことだろう。できるならばもっと近づいてその詳細を覗いてみたいという衝動に駆られる。が、それは緑の夏までとっておこう。きっと今よりずっと穏やかな表情で迎えてくれることだろう。そのときまでさようならだ。緑の夏までさようならだ・・・。


<続く> 「平湯大滝」へ  


さあ本日の行動開始!山が待っている。



旅に出るとどうして朝飯がおいしいのだろう?

朝食ももりもりと

森に囲まれた露天風呂、雪見風呂もいいものだ

露天風呂の周囲は雪


 <爽快な朝と温泉>


翌早朝、起き出して温泉につかる。90℃の湯温の天然温泉が豊富に湧き出し、24時間かけ流しという本物である。内湯のガラス戸を空けると露天風呂になっているが外は寒い。どうやら昨日までの冬将軍はお帰りになったようで、澄んだ青空のお目見えだ。熱いほどの湯で身体を温めて朝食の膳に向かった。

さて「奥飛騨温泉郷」とは?それは岐阜県上宝村(高山市に合併)に点在する5つの温泉地を総称することばだ。まず「新穂高温泉」は北アルプスの西側直下(上高地の反対側)に位置し、大自然に包まれた温泉郷。わたしたちが宿泊しているのはここで地理的には最奥にあたる。

温泉郷の基点、家族的な雰囲気の「栃尾温泉」は昨日通過してきた。

奥飛騨の中心に位置し、最近は大型バスが運行し賑わいをみせている「新平湯温泉」。

時間を遡ったような、懐かしさを醸し出す「福地温泉」。

昔はここしか知らなかったが、古くから温泉郷の要衝として栄え、風格ある趣の「平湯温泉」。

以上の5つである。いずれも豊富な湯量を誇り、気軽に立ち寄れる露天の温泉も多い。

すでに8時半の始発ロープウエイを待ってこんな人だかりができていた。冬山装備のかたが半分ぐらいでしょうか?
積み残し客もピストンしてくれるから大丈夫でした。

北アとは逆の西側の笠が岳・尖った山

笠が岳

南に位置する活火山焼岳

活火山・焼岳

この旅ではじめて青空を見た
明日は晴れてほしい日!期待が高まる

宿の窓から
峠にさしかかると雪が舞う
神岡から新穂高温泉へ


 <新穂高温泉へ>


国道41号線の神岡から「奥飛騨温泉郷」の一つ「新穂高温泉」に向かい雪道を急いだ。

冬の日暮れが早いのと時ならぬ寒波の余韻が残っていて、道路は凍りつき、峠道はあいかわらずの降雪である。それに今宵の宿は奥飛騨のさらに奥まった新穂高温泉の一角『中尾』というところにある。夏はさわやかな空気が流れる海抜1100mという高原のリゾートだ。ここに決めたのは人里を離れていること。新穂高ロープウエイに近いということの二つの理由からだが・・・。

道中はやはり普通ではなかった。国道471号を栃尾温泉で道を分けたあと、蒲田川に沿ってさらに上る。道幅は狭くなり、大型車とのすれ違いには最大の注意が必要だ。

じつは前夜あまりにも凄まじい雪だったので、民宿のオヤジさんから緊急のSOSがはいった。親切にも電話で雪の状況を知らせてくれたのだ。よく聞いてみると、「平湯に向かう熊牧場のあたりで凍結スリップ事故があってたいへんだった、こちらの客(わたしたちのこと)は大丈夫だろうか!」ということになって知らせてくれたのだが、わたしたちがスタッドレスタイヤを履いていることを聞いて安心したそうだ。その気遣いが嬉しかった。

新穂高温泉の橋をわたりさらに山道を上り始めると、すぐそこにこの日の宿「つくしんぼ」はあった。オヤジさんが(心配して?)表に出て待っていてくれた。ほっと一安心。部屋に落ち着いて東の窓を開けてみると雲の間から青い空が姿を現した。(よし!明日は晴れだ!)


<カントリーハウス『つくしんぼ』>


この日の宿「つくしんぼ」の客は、京都・福知山からの5人連れのパーティとわたしたちとの二組のみであった。かれらは冬山歩きが目的で、西穂山荘に予約を入れていたのが、ロープウエイが悪天候で運行しないという不運に見舞われ、足止めをくっていた。じりじりとしたのだろうが、あの吹雪ではいたし方ないと諦めたそうだ。「昼間から酒盛りですわ!」
 うん、それも悪くない。一日だけの骨休め。

夕飯の前の雑談。
 「明日は晴れ!」という天気予報と、宿の母さんの「夕方の雲の出方から天気はよくなる!」ということばに励まされ、互いに盛り上がった。

宿を切り盛りしているオヤジさんと母さんのご夫婦は、お二人とも話好きで人なつっこい。愛知県・知多半島の突端・師崎(もろさき)のご出身で、根っからの海の人である。魚のおいしさでは定評のある漁師町である。そんな海の人がなんで山に入ったのか、という疑問をぶつけてみた。
 母さんはおしゃべりが好きである。「オヤジさんが20数年前旅行でここにきて、すっかり気に入ってしまった。それですぐに土地を買ってこんな商売を始めた。始めた当初は師崎からもお客がたくさん見えられて、毎日毎日忙しゅうてたいへんだった。旅行会社のかたも驚いていなすった。」

「忙しいけど儲かった。だから田舎のことなんか思い出す暇もなかったんだけど・・・・けれども」と一息ついて、しみじみと「わたしはやっぱり今でも海が好き!」と本音をおっしゃった。

宿のロビーには北アルプスや穂高連峰の高嶺の絶景が掲額されている。この光景があるから山もいいと思っているのではと思うのと、お客さんとの会話がやっぱり楽しみなのでは・・・?

雪を被った宿の裏山

宿の裏山

オヤジさんと母さんと同行の富士宮氏

京都府丹波・福知山といえばやはり山だが
西穂高の銀嶺は特別に魅力のようだ。
丹波福知山の皆さん

つくしんぼのHP  新穂高ロープウエイのHP

ロープウエイの終点で下りて階段を駆け上り、目前に広がる光景に
息をのんで、「おお、絶景!」と叫んだ。


北アルプスの秀峰たち

朝日を正面から受けてすれ違うロープウエイ

朝日の中ですれ違うロープウエイ

うわあっと歓声があがった

こんな感じで上っていく

何を見てるのかって? 下の景色だよ!

きれいだネエ


 <新穂高ロープウエイ>

『つくしんぼ』のお二人に見送られ、新穂高ロープウエイ8時30分の始発に間に合うよう坂道を急いだ。さすがにまだ駐車場に車は少なかった。その端で、同宿した福知山の5人組が登山装備の点検をしていた。目でご挨拶をしたが、(いい天気になってよかった!)という喜びが顔ににじみ出ていた。

切符を買う。往復に2800円かかるが、『つくしんぼ』で冬季の割引券をいただいたので助かった。すでに予想もしない長蛇の列だ。そのほとんどが冬山の装備を身につけているのは、昨日の運休のせいだろう。ここは北アルプス登山の基点でもある。ただ本格的な登山家は少なく、有名な西穂山荘まで90分ほどのトレックをしたあとベランダでコーヒーでも飲み、雪をかぶった北アルプスの峰々を存分に見てこよう、というかたが多いようだ。

ふと思い出したのは井上靖の小説「氷壁」だ。信州側の沢渡から上って冬の奥穂高で事故は起きた・・・・ザイルは切ったのか切れたのか?

さて、このロープウエイは全長3,200mと世界有数を誇るが途中で乗換えがある。第1ロープウエイで新穂高高原駅(標高1,117m)から鍋平高原駅(1,305m)に上がり、そこで第2ロープウエイに乗り換えてこんどは白樺平駅から終点の西穂高口駅(2,156m)まで上る。高低差1,039mを、乗り継ぎを計算しないと、10分あまりで上がってしまう。あっという間の上昇だが、ロープウエイの中では外を流れる景観に何回も歓声があがった。

木曽駒が岳のロープウエイは「千畳敷(2,611.5m)カール」まで高低差950m730秒で一気に登ったが、いずれも世界に誇れる日本の最高水準の技術がそれを可能にした。おかげでずぼらな人間でも絶景を目のあたりに見られるようになった。ありがたい。


 <夕 食>


酒が入った夕食時の会話はさらに盛り上がった。

「この辺には熊が一匹住んでいなさって、時々姿を現すんだなも。」その熊とのご対面は何回かあったようだが、「すぐ近くで熊の尻を見てしまった。猿かと思ったが猿のように赤くはなかった。熊の尻と猿の尻は違う!人間に驚いて逃げていきなさった。」どうもツキノワグマと共存共栄の生活を送っているようだが、うーんと唸ってしまった。

その他、「凍結した道路で頭を打ってしまいそれからは恐くなっただ!」という話。

「ネックレスは首に虫が這うようで嫌いだ!」という話。

「市町村合併で故郷が、年寄りに覚えられないような南セントレア市になってしまいそうであったが、わたしは反対!」という話。

三河弁丸出しのご夫婦の話は好感がもてた。

かつては犬を飼っていたのだが、「18歳で亡くなってからは自分たちの年齢を考えてもう次を飼う気はしない」とおっしゃられたときは返すことばがなかった。

夕食の膳は山の幸が主役。飛騨牛肉のステーキ、
朴葉味噌、野菜の天ぷら、岩魚の刺身など

夕食の山の幸

インターネットで見つけて宿を頼んだのだが、
そのことを話したらイワナを焼いてくれた。

岩魚を焼く

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