<札幌の夜>


 この夜の晩餐は東屯田通りの小料理屋「ほの路」。かつて札幌在住時はよく通ったものだが、その味が忘れられず、電話で確認してやってきた。

 既に定年退職した先輩の弥次さんと札幌駅で待ち合わせ、久しぶりのご対面。この間の消息を「ほの路」に向かうタクシーの中で交換。

南9条西4丁目交差点

 敬愛すべき性格の弥次さんは、私の転勤以来益々山登りにこって、今や、北海道100名山の踏破に挑戦しているという。5年がかりの計画は1年に20山登頂になり、したがって毎月最低1つか2つの山登りをする勘定になる。冬山もいとわず、スキーや“かんじき”を履いて登る。

 海外にも遠征経験のある山岳会ベテランの先達が彼らのグループを案内している由、安全と健康と挑戦がテーマ。いつも何かに挑戦している姿には勇気を与えられる。会社とか仕事のことは別次元の話と考えているから元気そのもので、これが弥次さん流の生き方だ。


<ほの路>

 「ほの路」のメニューの中で、ママさんのお目当てはタチの天ぷらとツブ刺し、ホタテ。他に厚岸の牡蠣酢、焼き椎茸、出汁まき卵・・・。

新鮮なホタテ

 40歳を過ぎて働き盛りの年齢か、この料理屋の旦那は無口で愛想が悪い。会話が会話にならない。魚のことや包丁のことなど料理に関するあれこれを尋ねると無表情でぼそっと答えてくれるが、それ以上の言葉を口にしない。何か失礼なことでも言ったのかと自分の発言をトレースすることもしばしば。だが、どの客も慣れてしまえばこんなモノかとあきらめて料理をつまんでいる。

 しかし腕は確かに良い。板前は腕さえよければ他は不用だと思う。お客さんは、おいしさに満足できればそれで十分なのだ。ちかごろテレビに出てやたらと口が回るタレント的料理人はどうも好かない。

 旦那は京都で修行してきたというだけあって味が穏やかだ。

 おなかを落ち着かせた後、松茸の土瓶蒸しとひれ酒をいただいたのだが、その相性が抜群に良かった。土瓶蒸しに白身魚が入っているのだが、その魚の生臭さがまったく残っていない。晩秋の侘しさとあいまって、徳利の数が並んだ。

 北の味でお腹をいっぱいにした後、弥次さんも久しぶりという歓楽街すすきの「某スナック」で心行くまでカラオケを楽しむ。この店はこちらが気を遣う必要も無く、リラックスしてばか話ができる。


<ススキノママのプロ根性>

 赴任時代に通った頃たいへん驚いた話だが、最初に訪れたとき興に任せて歌った10数曲をママはすべて覚えていてくれた。次の機会にわたしが迷っていると、次から次へとお気に入りの曲が選択されたのである。彼女のデータベースにきちんとインプットされているのだ。これはプロだと思った。激戦のススキノで生きながらえる水商売プロの知恵を知った思い。

ススキノのスナックで

 歳月を経てもママからは夫婦ともども十分な歓待を受け、旧交を温めた。

 ほろ酔い機嫌のいい気持ちになって、ラーメン横丁の「ひぐま」で腹ごしらえの締め。酔いも手伝っていたが、ただ懐かしいだけでこの店の暖簾をくぐってしまった。正確には学生時代の30数年前の夏、旅行途中に立寄った。当時は雑誌等に「麺は残してもスープは残すな。」と紹介されていた話題の店だ。今はといえば、どうということのない普通のラーメン店になっていたが、そのころは学生で満員だった。俗に言うパブリシティ効果というものだったのだろう。

Vol.5<ヘソを目指して>へ

1.プロローグ2.晩秋の北大3.時計台・小樽逍遥4.札幌の夜・ススキノ5.ヘソを目指して・桂沢湖・三段の滝6.富良野・美瑛パッチワークの丘7.美瑛のラーメン・望岳台8.十勝岳温泉9.札幌すし善10.エピローグ中島公園


△ 北海道トップへ

△ 旅トップへ

△ ホームページトップへ


Copyright ©2003-6 Skipio all rights reserved

美瑛の丘からの十勝岳連峰・秋

Vol.4   北海道SPECIAL 
北の大地再訪札幌・富良野・美瑛 2001.11