12時丁度に尾瀬沼を見下ろす休憩所のベンチで昼食となった。周囲を見渡すといつの間に集まってきたのかベンチは満員御礼状態で、中高年のおじさん・おばさんが圧倒的に多い。
バスツアーのガイドさんはそんな年配者のあれこれに気を使いながら、観光案内をする。沼山口からの入山は観光会社のツアーに組み入れられるほど容易なわけである。
わたしたちもその中に紛れ込んで、質素ではあるが楽しい昼食が始まった。途中、南会津郡田島町のコンビニ(桧枝岐近辺にはないので注意)で購入したおにぎり3個と、なすときゅうりの漬物は、湿原の散策で空かせたお腹を満たすに十分であった。なんとなく、この雰囲気の中にいられるだけで幸せを感じてしまうような、ゆったりとした豊かな時間が過ぎていく。「時間よ、止まれ!」といってみたくなるような・・・。
おっと、350ccの缶ビールもいただいてしまいました。尾瀬沼周辺は要所に水洗トイレが整備されており、下の心配をする必要がないので気楽である。(ただし、もちろん飲みすぎる場所ではありませんぞ!)
そして、食後に見たこの東岸からの景色が秀逸であった。
ミネザクラは満開の時期をやや過ぎていたが、その花びらの向こうに尾瀬沼と二層の森が奥へと続き、それらを睥睨するかのように燧ケ岳が青空に厳然と聳えていた。
いつまで眺めていてもこの景色は飽きない。ゆっくり昼寝でもしたいところだが時間がそれを許してくれない。とりあえず三平下まで急ぐことにした。12時35分スタート。
ここから三平下までは雑木林の中を、尾瀬沼を見ながら進むのだが、燧ケ岳が一番引き立つビューポイントに恵まれている。各ページのトップに置いている画像はその一つだが、ギザギザ頭の頂上から左右になだらかに伸びる稜線と、水色の静かな湖面と青い空のコントラストはなかなか見られるものではない。わたしたちは梅雨入りのこの時期にそんな光景に出会えただけで良しとしなければ・・・。
もう一つ、上の画像も秀逸であった。足元の沼岸には水芭蕉が咲きそろい、右手から突き出た東岸の森の先に一艘のボートが係留されていた。乗る人のいないボートはいかにも寂しげで、この景には人のけはいが感ぜられない。ただ燧ケ岳だけは泰然と屹立している。「わしゃあ、大自然というものだ。君たちとは違うよ、わっはっは!」と山の雄叫びが聞こえてきそうである。
この山道には湿原とは異なる植生が息づいていた。(下の写真はいずれも純白の花だが、葉がまったく違う。上:オオカメノキ(ムシカリ)、下左:サンカヨウ、下右:コミヤマカタバミ)
日陰にひっそりとコミヤマカタバミが、すぐ近くにはイチリンソウやエンレイソウが。オオカメノキと白さを競うようにゴゼンタチバナ(御前橘)が優雅な花びらを広げ、これもまた白いサンカヨウ(山荷葉)が緑の大葉の上に可憐な花をつけていた。
「三平下」着12時55分。
大清水から長い時間をかけてここに下りてくることもできるが、昼下がりのこの時間に登山者はまばらであった。
急に雲行きが怪しくなってきた。山の午後の天気ほどあてにならないものはないが、今は梅雨時だから降られて当たり前。西の尾瀬ヶ原の方角から暗い雨雲が押し寄せてきた。このまま進んで当初計画通り尾瀬沼を周回する手もあったが、それより安全面を重視し、ここから引き返すことにした。
結論から言えばポツリと来たが、終日歩いている時間にザーはなかった。繰り返すことになるが、平素の行いの良さが証明されることとなった。
<続く>
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