<TAVERNA RONDINO
タベルナ ロンディーノ >
そのリレストランテは稲村ヶ崎駅入口の信号から江ノ島に向かう海岸通りにあった。強風に吹きあそばされているが、明るい茶色の壁と白い窓というモダンな「家」はびくともしない。ちょうどお昼の時間ということもあり、賑わっていたが、わたしは運良く窓際の席を確保できた。
髭を生やして律儀そうなおジさんが采配を振るっているので(このかたがオーナーか)と思ったが挙措動作がそのようではない。アラカルトでも頼めたが、コストパフォーマンスを考えてランチのコースを選んだ。
風が吹きよせるベランダにテーブルが置かれ、そのテーブルクロスがパタパタと音を立てて揺れていた。
イタリアレストランはほとんど例外なく白い壁に地中海系の絵画がかかっていたりシンプルなモダンアートで飾られている。「ロンディーノ」も壁にかけられた絵がなかなかいい。鉛筆で書かれたデッサンを額に収めてあるが、「どなたが書いたのですか?オーナーですか?」と質問してみたが「さあ?」という返事のみ。
一方、入口左の壁にブオンリコルド(BUON RICORDO)の絵皿がかけられている。直訳すると「思い出の皿」ということだが、一般的には食事した記念にコレクションするようである。イヤーズプレートやクリスマスプレートに比べて明るく単純だから、装飾皿としては面白い。その芸術的価値を詮索する必要はないでしょう。
RONDINOオーナーの沖喜保治さんはORPI(オルピ)の日本代表を務める。(食事の味は食べてみなければわからないのだから)オルビがどれだけのものかわたしは知らないが、これはイタリア政府農業省の協力の下に1984年発足した、イタリア・プロフェショナル・レストラン協会のこと。
ジェノバに本部を持ち、その目的はイタリア料理のイタリア国外への普及、世界各国で活躍する料理人と交流を深め、互いに信頼関係を築き、相互の技術向上に努めることなど。シェフの高木茂夫さんは「イタリア人が食べてもおいしいと感じてくれる本場の味を再現するのがわたしの仕事」と言い切っている。
さてこの日のメニュー、といってもランチだから前菜の3点とパスタ、デザートとコーヒーのみ。ランチだからこれで十分。右の写真の通りでしたが十分満足のいくものでした。
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<稲村ヶ崎>
腰越駅から乗った江ノ電は、小動岬(こゆるぎみさき)を過ぎると右手の「七里ガ浜」に沿って走る。ずっと相模湾が開け冬の陽光は目を開けていられないほどまぶしい。白波が立っているのは海が荒れている証拠だろうが、電車の窓を通して見える光景はあくまで暖かい。この電車のイメージは欠伸をかく老人というところだろうか。
電車は「稲村ヶ崎」に近づくと、猫の額ほどの狭い宅地の間に滑り込んでいく。それでも線路沿いに細い道が張り付き海浜の家々を結んでいる。
「その駅」で下車すると、駅の周辺に少しばかりの商い家が店を開いていた。海水浴の季節には賑やかだろうと想像できるが、真冬の駅前に人通りは少ない。楚々とした女性のグループが駅前の路地を右に曲がって消えた。わたしも海岸沿いに出ようとして、何気なく彼女たちの後を追って歩いていた。すぐ右手に明るいグレーでペイントされた六角形の駐在さんの建物があり、「鎌倉警察署稲村ヶ崎駐在所」とある。
いまの季節はさぞかし暇だろうなどと取り留めのないことを考えながら、しらけた町並みを眺め渡した。
さてその先のカーブを曲がったところににワインレッドのハイカラな邸宅があり、彼女たちはその中に吸い込まれていった。名のある方の別荘だろうかと思い、表札を確認すると「アリスの家」と記されている。小さな文字で「聖路加病院看護大学セミナーハウス」と付記されていた。
(なるほど!なかなか風光明媚なところにあってさすがだけれども、若いお嬢さんたちが多いだけに夏は風紀がたいへんだろうなあ!)などと余計な考えをめぐらせていると「音無橋」という小橋がかかっている。その川下を眺めると海が白く光っている。冬の湘南は光が多くて全体が白い。道も建物も海も、すべてが軽くて白い。
白い道を引き返し突き当たると、左手にマリンブルーに塗った二階家が見え、その看板に「海水用品」と書かれていた。やはり土地柄だなあと、夏の賑やかな海水浴を思い浮かべながら右に曲がろうとすると、そこから予期しない海が見えた。その小さな空間からざわざわと白波が立ち、海が荒れているのを感じ取れた。
冷たい強風に震えそうな海岸に若い女性が二人、どうも記念写真を撮っているようだ。なかなかファッショナブルで絵になっていると感じたので、道路の上からパチリと無断で撮ってしまった。うん、なかなかいい。