1.神の国(プロローグ) 2.大正池 3.田代池 4.河童橋へ 5.最終章
田代橋から上流の眺め
大正池から歩き出して河童橋に向かうルートのなかで、田代橋はちょうど真ん中あたりになるのでしょうか。ここから上流への散策コースも左岸・右岸(上流から見て)の二つがあります。
■ 左岸コース
左岸コースは右岸に比べて多少距離が短く、個人的には左岸のほうが断然好き。何故かといえば、穂高連峰を常に正面から眺望でき、そのまま河童橋までこの眺望が続いていて、この景観が上高地随一と思っていますから。
途中、右手に広がる見事なカラマツの林を見送ると上高地バスターミナルの脇に出ます。ここから河童橋まではもう間もなくです。
左岸から河童橋・穂高の眺望
■ 右岸コース
ところがこの日は景観が広々としている右岸を選びました。
こちらは左岸の背景にある霞沢岳や六百山を眺めながらのコースです。
右岸からの眺望もなかなかのもの
左手六百山、右手霞沢岳と田代橋
上流左手に、山小屋というよりホテルというべき建物か見えています。茶色いのが百周年を迎えた“上高地温泉ホテル”、その向こうの白い建物は“上高地清水屋ホテル”です。このあたりには江戸時代から、森林伐採にかり出された作業員の湯宿としていくつかの宿があったようですが、そのいくつかが立派に成長して今日まで残ったという話です。
近代の歴史を紐解けばウエストン卿や芥川龍之介、高村光太郎・智恵子夫妻などの足跡が残ります。
だからということもないでしょうが、これらのホテルは宿泊代が恐ろしく高い。
まさに高嶺の花、ではありませんが高嶺(高値)のホテルということでしょうか。
上高地温泉ホテル
上高地清水屋ホテル
・・・・・田代橋からの北アルプスも見逃せません。
田代橋の上流右岸にあります。
何回も登場しますが、ウォルター・ウェストン(1861〜1940)はイギリス国教会の宣教師。明治21年(1888)に来日し、同28年まで、布教のかたわら槍ヶ岳・穂高連峰をはじめ日本の山を歩きました。
日本に近代登山を興すきっかけを作り、また、『日本アルプスの登山と探検』を刊行し、日本の山を初めて世界に紹介しています。氏の活動は日本山岳会結成のきっかけとなり、日本山岳会はその功績を顕彰して、また氏の喜寿の祝いも兼ねて、昭和12(1937)年に碑を制作しました。
第2次大戦中に撤去され戦後にふたたび修復、現在の碑は昭和40年(1965)に作られた2代目のものです。
毎年6月の第1日曜にこの碑の前でウェストン祭が催されます。
遠くから見ると平坦に見える北アルプスの高嶺は、拡大してしっかり見てみると、一つ一つがごつごつと鋭角の角を突き出しているようです。厳しい気象条件によって鍛えられているために余分な贅肉はすべて落ち、オリンピック選手のような強靭な筋肉質の肉体を作り上げたというところでしょうか。
実はこの山岳地帯は、ヒン岩という堅くて摂理の発達した火成岩でできているため尖った嶺や断崖絶壁を造っているというわけです。
筋肉質の山に筋肉質の男どもが挑戦する、これが美しいストーリーですが、最近はさにあらずで、登山道も整備されているためか贅肉をたっぷりと溜め込んだ太りじしの熟年女性が闊歩しているようです。
それが悪いなどとは決して申しませんが、いい時代になりました、はい・・・。
雪を抱いた北アルプスの雄姿
手で掴み取れそうですが・・・
それで、ついでにもっと昔のことまで調べてしまいましょうということで・・・北アルプスには何億年も前(といえば超大陸バンゲア分裂の時代しかありませんが?)からの古代の地層があります。
それらが隆起して現在の山になったのは200万年ほど前から。人間は現在の形をなさず、猿人から原人への進化途上のころ・・・この急激な隆起とともに梓川は深い谷を刻みました。
上高地の細長い平地は、本来もっとずっと深い谷であったところを、焼岳の噴火や他の山から流れ込んだ土砂の堆積によって平らかに形成されたと解釈されています。
この山深い上流の渓谷に平和そのものの落ち着いた平地が存在すること自体が、わたしには“神の配剤”としか思えません。見えない神の手によって、後世の私たちはその恩恵に触れることができたのです。
その神を地元の方は“穂高見命(ほだかみのみこと)”として祀っています。神話の世界はにわかに信じられないどろどろしたものがありますが、穂高見命は綿積(わだつみ)の神の嫡子で、神武天皇の叔父さんにあたるようです。
天皇家の東の要として、菊のご紋が使われています。
ちなみにこのあたり一帯を“安曇野”と呼んでいますが、アズミとは、ワダツミの訛りと伝えられています。
<続く> 「上高地その5最終章」へ
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上高地 その4
2006.5.5