木の間越しに葛の寺
時間は午前9時を過ぎたばかりで、このまま長瀞に直行したのでは時間をもてあましそうだ。
道路わきに「長瀞八景・間瀬峠」の案内標識があったので、その間道を登り始めた。道の両側に秋の雑木が生い茂る田舎道の途中に「葛の寺」の看板を見つけた。
「長瀞七草葛葉寺・野上山遍照寺」とある。
七草に引っかかったのだが、「葛葉寺」とあれば当然、七草の意は「秋の七草」のこと。
山上憶良の「萩の花 尾花 葛花 なでしこの花 をみなへし また藤袴 朝顔の花」の歌を借りれば、長瀞の七草は洞昌院の萩の花、道光寺の尾花(すすき)、不動寺の撫子の花、真性寺の女郎花(おみなえし)、法善寺の藤袴、多法寺の朝顔の花(桔梗のこと)。それらに加えて遍照寺の葛の花ということになる。
野草観察ブームの昨今、この七草寺目当てに長瀞を訪れる女性客は多いようだ。
さて、道路わきの駐車場に車を置いて、「この小山を越えなくてはならないようですね!」と歩き出した。途中「葛の根、この根から葛粉をとります。根代は30年くらいです。」と説明書きがなされている。葛はつる性の宿根草で茎は10メートル以上にも伸び、藤に似た紫の花が咲く。
間もなく木の間越しの眼下に寺の本堂が姿を現した。葛の葉のトンネルを抜けて寺の門前に出ると、六体の石の地蔵さんがわたしたちを待っていた。
寺の開基は林助之進国政、といっても私は知らない。1570年前後というから戦国時代の真っ只中。寺の縁起に面白いことが書いてあった。「一姓一寺の習慣にて国政系の林姓以外は檀家になることができない。」
真言宗智山派の末寺。
葛の寺遍照寺本堂
葛の寺にきちんと参拝をしなかったためか、道に迷ってしまった。間瀬峠を目指しているのに、車はいずこかに下っている。カーナビを装備していないために、「この車は何処に向かっているの?」という状態。
昔、三重県は四日市の奥、菰野山中で迷ったことがある。すれ違う車もいない深夜、1時間半もぐるぐると堂々巡りをした結果、同じ場所に出てきた。まるで狐につままれたようであったが、ウイットに富んだ同僚に笑われながら言われた。「そりゃあ狐のせいだよ。菰野から草かんむりをとったら狐だから!」
今回はもと来た道を戻り、峠への横道を発見(案内標識はなかった?)、順調に峠道を登った。そして出合った絶景。ススキが繁る峠からは群馬の山並みが何処までも連なっていくのが見えた・・・。
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