35章 神秘の湖
オコタンペ湖


神秘の湖 オコタンペ 積年の望みであったこの「湖の神秘」に、やっとたどり着けたのは95年5月14日。

 春とはいえ高所にある湖の周囲には雪が残り、木々も葉を落としたままで寒々としていた。

< 秘 湖 >

 札幌からの国道453号は支笏湖とぶつかる手前で恵庭岳にさえぎられ、そこを左回りに進むと支笏湖畔に到達するのだが、ここで右に折れる小道がある。
昔は車の通る道もなく、その「神秘の湖」に行くためには歩くしかなかった。

 今を遡ること30年も昔、この入り口まで来て草の生えた獣道に愕然とし、無念にも踵を返したことがあった。その名を「オコタンペ」湖という。

 周囲5km、最大水深20.5m、湖面標高574mというこの小さな湖は北海道3大秘湖』の一つにあげられている。
 他の二つの秘湖とは・・・・阿寒湖近くの『オンネトー』は阿寒から足寄に抜ける街道から左に小道を入ったところにあり、静寂な湖畔からは雌阿寒岳が眺望できる。
 もう一つは然別湖の東側にある『東雲(しののめ)湖』で、こちらは山歩きかカヌーでしか到達できないほどの秘境だ。いずれも札幌から遠方にありその旅程にはそれなりの資金と時間が必要である。


激しく流れるオコタンペ川 いまやもっとも簡単に行き着くことができるのが『オコタンペ湖』となった。ここは恵庭岳火山の噴火によって沢がせき止められてできた湖で、湖の水はオコタンペ川を下って支笏湖に注いでいる。

< 想 い >

 幸いなことに現在は道路が開通したため旧日の悪しき面影はない。(ただし冬季は閉鎖)
 国立公園特別保護区に指定されているため湖面に近づくことはできないが、車であればあっけないほど簡単に湖と対面し、道路わきの小さな展望台から崖下を見下ろすことができる。こうなると「神秘」のことばは返上するしかないのだが。

 しかしながら・・・
 その昔、苦労しながらお会いできなかったという事実がいささかわたしを興奮させていた。男女の間も同じなのだろうが、切ない願望というものは必要以上に対象を美化するものなのかも知れない。
 道路わきの駐車場に車を置いて周辺の山々を眺めると、エゾマツやダケカンバの木々はいまだ葉を落としたままの寒々とした冬景色。

 眼下を望むと、待ちに待ったエメラルドグリーンの湖の北面と、二人だけの感動のご対面。
 湖面のブルーグリーンの色は深さによってまだら模様を描く。その宝石のような7色の変化がわたしの網膜に染みついていく。「神秘」の形容はやはり正しかった。

 やっと長年の望みが叶ったという特別の感慨があった。


<続く> (2004.10.6)

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