34章 樽前山
噴煙を上げる活火山


支笏湖から・・・左奥が樽前山

 95年6月11日。
 昼前に札幌を発ち支笏湖に向かった。気軽なドライブのつもりであったのが、途中気が変わり、樽前山に登ってみたいという気分になっていた。ガイドブックには、『車で登山口までたどり着けば登山は簡単』と記載されている。思いついたらすぐに行動すべし!

 支笏湖の南になだらかな稜線を見せる樽前山(タルマエサン)は標高1041mの活火山。7合目までは車で行くことができる。

< 気楽な登山 >

 午後2時、駐車場に車を置いて登山台帳に名前を登録し、まずは記念写真。
 下山してきた中年の女性がたむろしていたので「いかがでした?」と声をかけてみた。なにしろ初めての山でもあり情報は集めておかないと・・・。
 「太平洋がみえて、天候も良かったしすばらしかったわ。思っていたより楽でしたよ。」と下山の安堵感も手伝って彼女の返事はさわやかであった。わたしは、勇気倍増して上り始めた。


 山行きでいつも感じるのは、歩き始めのしんどさ。急に心臓を圧迫するからだろうか、心臓は高鳴り呼吸が苦しい。でもここを過ぎれば、あとは惰性?で登って行くことができる。

 樽前山は登り口で既に森林限界を超えているのか、あるいは火山灰台地のせいなのか、途中景色をさえぎる高い樹木がなく、全行程を通して見晴らしがいい。
 このことは登山者に圧迫感を感じさせず、登山の苦しさから開放する大きな意味を持つ。既にかなりの高所からスタートしているわけだから、はじめから下界を見下ろすという優雅な気分に浸れる。

<勇払原野>

 この地一帯を勇払原野という。
 アンモナイトの発見から、1億年もの長い年月をかけて原野が形成されたことが証明され、それだけに豊かな自然が残されている。

 氷河期に思いをはせれば、長い毛でおおわれた巨大なマンモス・ゾウが群れを作ってのし歩いた姿も想像できるのだ。
 また土器や土偶の発掘は、2500年も昔この地に縄文人(アイヌ人か、そのさらに以前に居住していたという先住民)が住み着いていたことのあらわれであり、驚きすら感じてしまう。


 さて、上ってきた北側には支笏湖がカルデラ湖らしい『釜』の様相を見せ佇んでいる。そこから針葉樹林の海が足元まで続く。

 樽前山をおおう雲 右と左に注目いっぽう太平洋はと振り返ると、こちらは一面の雲海が覆っている。この雲は不可思議な分布を呈している。この地方独特の気候的な特徴だが、分水嶺(あるいは太平洋型と日本海型の気候の分かれ目)が雲の境界線を引いている。原始の森林帯に線を引いて、その線から向こうは厚い雲に覆われ、こちらは雲ひとつない晴天という明快な様相を呈する。

 したがって勇払の中心都市で、製紙の町でもある「苫小牧」は雲の下にある。
 そう、事実、苫小牧はゴルフ場銀座でありながら一年中曇りがちという、小雨の町なのだ。この日の天候も典型的な苫小牧型で、先ほどのご婦人の晴れやかなコメントに反して、残念ながら太平洋を眺望することはできなかった。

<活火山の島>

後が支笏湖 北海道は、環太平洋火山帯の一部、東日本火山帯の北の終点にあたる。

 したがって帯状に活火山が分布する。

 東は知床半島の硫黄山や羅臼岳と、それにつながる雌阿寒岳や摩周の山々。中央に鎮座する北海道の屋根・大雪山とその連峰。南に続く十勝岳は常に白い噴煙を上げている


 札幌から車で1時間の距離でも活発に活動している山はたくさんある。ニセコ連山がしかり、蝦夷富士・後方羊蹄山(しりべし)もしかり、近年温泉街にもっとも大きな被害をもたらした洞爺湖の隣・有珠山も同じ仲間。

 南北海道では、右肩上がりの秀峰・駒ケ岳や恵山が噴煙を上げている。
 わたしが登った樽前山も活動履歴を調べてみると、地震のない年はないくらい活性化している。

 だから温泉が多いということもうなづける。わたしも数ある温泉を享受、堪能しているのだが、逆に火山の爆発という危険と常に隣り合わせにいることも事実。

<不気味な溶岩ドーム>

 話は登山に戻る。

 登山路は火山灰土、細かな軽石を敷き詰めたような斜面で、ズズッと靴が沈む感覚がある。早足では進めないからゆっくりゆっくり上っていく。頂上近くに植物は何も生えていないので、寂寥感が漂う。行ったことはないが下北半島の「恐山」のイメージに近い。活火山の激しい怒りの世界は、さもありなんと感じる。

 しかしながら歩行距離は短いので、1時間強で頂上付近に到達してしまった。白い噴煙がモウモウと上がっているが、すぐ近くでカメラを構えることができた。

溶岩ドームと噴煙と

 この光景は他の自然景観と比較してまったく変わっている。頂上に、噴煙で自然にできた巨大な饅頭型の溶岩ドーム(写真の右奥)がせり上がり、常に大量のガスを噴出している。そのドームは大小の噴出した溶岩の堆積でできたものだが、真っ黒い不気味な物体に思われ、またことばを変えれば、地獄の釜にも似て近よりがたいものがあった。

 得体の知れないこの黒い隆起を、わたしは「地獄の大釜」と名づけた。

活火山の噴煙と向こうに見えるのが風不死岳

<続く> (2004.10.6)

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