33章
濤沸湖と止別駅「駅馬車」

97.3.29



 前の晩は、オホーツクに面したサロマ湖・栄浦の著名な民宿「船長の家」に泊った。ここは二度目であったが、いずれも満足のいくカニ料理を安価に味わった。サロマに行くならお勧めの宿である。

 そして網走を経て知床の入口の町へ・・・。

<濤沸湖の白鳥>

二級河川濤沸湖 濤沸湖(とうふつこ)はオホーツクに面した大潟湖で、白鳥の湖として知られる。
 10月も末になって、シベリアから数千羽の大白鳥が大挙して飛来する。湖畔は湿地や原生林が広がる野鳥の宝庫だから、白鳥たちも安心して遊ぶことができる。

 わたしたちは冬の香りが残る春3月末に、サロマを回遊してここを訪れた。
 網走からオホーツクを眺めつつ、「この道は知床に通じる道」と遥かな知床に思いをはせた。国道沿いの北浜白鳥公園の駐車場に車を止めると、クークーという白鳥の鳴き声がすごい。数え切れないほど、おびただしい数の白鳥たちが目に飛び込んできた。

濤沸湖に浮かぶ白鳥 紺色の冷たい湖に白鳥の白はきわだって美しく見えた。みな優しい顔をしている。屈託がなく、大きな身体を波の間に遊ばせている。

 湖岸で餌をやる観光客のところに白鳥は集まる。隣接する売店では金百円也で餌の雑穀を販売していた。

 大阪弁の若い女性が隣で餌をやってはしゃいでいるので声をかけると、「大阪から日帰りのツアーですよ!」という。あわただしいことこの上ないが、日帰りではもったいないというのがわたしの感想。でも、それまでしてここまで来たい、という気持ちが大事です。おみごと。

 白鳥は冬に南下する渡りの水鳥。北海道で白鳥の姿を目にするのは、クッチャロ湖やウトナイ湖、風蓮湖など珍しいことではない。いくつかの湖は、水鳥を保護するための世界的な条約・ラムサール条約に指定されている。

<止別・やんべつ>

 愛すべき白鳥に別れを告げて、わたしたちは小清水原生花園に向かった。原生花園の原点ともいえる「小清水」も、この季節は雪が残り花どころではない。ここに来るのはやはり6月の下旬から7月初旬だろうか。

 原生花園駅の隣駅に「名物」があるというので車を駆った。国道から少しそれた海側にその駅はあった。

止別駅 駅名を「止別」と書いて「やんべつ」と読む。

 昔の馬車の車輪を前後に置いて「止別駅」の看板が立つ。その純白の看板になにやら達筆で書き込んである。

「人の出逢いに 別れを止める こりんごの浜波は 純金の色」

 単純に「別れを止める」から「止別」の地名となっているのは理解できるが、なにか奥が深そうである。
 辛い別れの物語がいっぱい詰まっているような、あるいは、オホーツクの浜に乱れ咲く原生花とは別の、ロマンの花がこぼれ落ちるような、そんな情趣を感じたのである。とくにアイヌにまつわる伝説は多いと思いながら、はっと思い出した。

 それは流氷のこと。はるばるとアムール川の向こうから旅をして1月の中旬に姿を現し、3月には去ってしまう。短い逢瀬であるが、織姫と彦星のように毎年決まった時期にかならずやってくる。浜辺に近づいた流氷に太陽が当たる姿は、まさしく「純金の色」ではないだろうか?

<ラーメン喫茶「駅馬車」>

ーオホーツク・グルメラインー

たまたま通った釧網線の列車

 さて、駅舎の構内は「ラーメン喫茶・駅馬車」という小さなレストランになっていた。ここにその「名物」があった。

 じつは、釧網本線の無人駅にはその施設を生かした飲食店がいくつかあるのだそうだ。遊休資産を生かし、町のコミュニケーションの場としても活用できるこのアイデアはすばらしい。別名「オホーツクグルメライン」と呼ばれている。

 名物の「味噌ラーメン」と、じゃがいもバターが鍋ごと出てくる「ジャ ガイモ街道」を頼んだ。後者にはコクのある地元の牛乳がついてきた。白ねぎを細く刻んだねぎラーメン(ツーラーメン)も人気のようだ。冬の寒さを想像すると、やはり味の濃い味噌だなあと思う。

 昼時は車の列ができるというこの駅舎は、駅というよりもう立派なレストランである。

<有機作物>

 この地にもう一つ名産の農作物がある。

 網走から小清水に向かう国道244号線が、市街地に入る約5kmの直線道路のことを「ジャガイモ街道」と呼んでいる。立派なジャガイモやビート、大麦、野菜類が採れる。そして、そうなったのにはわけがある。

 小清水町の農家は、作物を作る台地の土壌改良に取り組んできた。
 日本の田畑はどこも、農薬や化学肥料を使いすぎて疲弊してしまった。有機物が減り、有機物を餌とする微生物もいなくなり、土はやせ衰え、病んでしまった。
 10年も前になるだろうか、昔の土壌を取り返そうと農家の有志が立ち上がった。酪農家のあり余る牛の糞尿や、農産物の加工場の廃液を培地にして微生物を大量に培養した。土は徐々に本来の健康を取り戻し、甦ろうとしている。

 そして安全で栄養価の高い作物が採れるようになった。

 わたしは感動して、ここで育った来年のじゃがいもを予約してしまった。
 翌年の秋、届いた取れたての「ジャガイモ」に、うまみが凝縮していたことは言うまでもない。

 駅馬車とラーメンとジャガイモと別れの駅「止別」は、いつまでも忘れられない駅となった・・・。

<続く> (2004.7.10)

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