25章 豊平峡温泉 


<定山渓と豊平峡>

 北の大地は温泉の宝庫、札幌から少し車を走らせれば大自然に囲まれた豊かな温泉郷に足を踏み入れることができる。定山渓に近い豊平峡温泉もそんなお奨めの一つである。


 国道230号線の愛称を、札幌からその奥座敷・定山渓温泉までを定山渓国道と呼び、そこから先、洞爺湖方面に中山峠を越えて延びる山道を中山国道と呼んでいる。同じ道である。

 さて定山渓を右折すれば30分ほどで全国のスキー客から愛されているサッポロ国際スキー場、さらに朝里川温泉を経て小樽に抜ける。この道は冬季封鎖されるが、雪解けシーズンには絶好のドライブコースとなる。

 一方定山渓の少し先を左折すると、ここは札幌市内を流れる豊平川の源流域で、定山湖をせき止めた豊平峡にいたるのだが、その途中左手に豊平峡温泉はある。

 外観は、戦前の小学校の校舎か兵舎のような古い木造建築。

 車を運動場のような広場に駐車して、同じく学校の下駄箱のような木枠の中に履物を入れて入場する。その際、しばしばわたしは食事つきのチケットを購入した。というのは、食堂が隣接していて、ここではインド人のコックさんがおいしい本場のカレーを料理してくれる。風呂上りにビールを飲んですっきりし、ついでに本格カレーと焼きたてのナンでお腹を満たすというおまけつきのプランなのだ。しかもセット・チケットは昼飯代に少し足せばOKというほど割安なので、これを利用しない手はない。


<スキー帰りの温泉>

 サッポロ国際スキー場からの帰り道、若い社員に「まだ温泉として認可されていないのですが、すばらしい温泉です」と紹介されたのが最初で、以来病みつきになり、春秋を問わず何回となく利用させてもらった。


 厳寒期の2月の週末、一人暮らしのマンションのベッドから抜け出す。雲ひとつない空を確認し、スキー板とブーツを車に押し込み地下の駐車場から車をスタートさせる。
 ・・・実は単身赴任の味気なさを慰めるためにも、冬場のイライラはスキーで発散させるしかないという個人的な事情もあってスキー場にはよく足を運んだ。
 札幌国際までは札幌南部の住まいから1時間半ほどの行程だ。朝9時過ぎのゲレンデには人の影もまばらで、スキー場を独り占めしたような豊かな気分に浸れる。圧雪したばかりの滑らかなスロープは、エッジが利き快適なすべりを楽しめる。パウダースノーの雪質とあわせて、腕前が数段上がったという錯覚に陥る。

 午前中3時間もすべれば大汗をかいて、もう大満足。

 団体のバスが連なってやってくる頃、皮肉なことにその頃になると雲行きが怪しくなる。それまでスカッと晴れていた空に雪雲が見え始めると、ちらちらと降ってくる。朝里岳の東側斜面を利用したスキー場は標高1000mの高みにある。冬山の天気は急激に変わる。上の方では風も吹き始め寒さが襲う。そろそろ上がらねば。そして温泉へ・・・。

 豊平峡温泉はスキーを終えて、冷えたからだを温め、筋肉の疲れをほぐすには最適。周囲の雪の山を眺めながらある時は土曜の午後、あるときは吹雪の夕暮れと、雪見の温泉を存分に楽しむことができた。



<春の温泉>

 6月、北海道の日照時間がもっとも長い時期。太陽の恵みを受けていっせいに草花が萌え始める季節。

 早朝から小樽カントリーで1ラウンド通しのゴルフを楽しみ、小樽で昼食を摂った。グラスアートと運河の小樽の町を2時間ほど散策したあとドライブに。朝里温泉街を抜け、オタルナイ湖を右手に見ながら定山渓高原へ。そしてサッポロ湖の展望台で一休みし豊平峡温泉に到着。時刻はまだ夕刻5時、深山幽谷の気配がただよう中、早起きして遊んだ一日の汗を流し、夜への英気を養った。そして7時、やっと夜の気配が忍び寄ってきた。そろそろススキノへ・・・。


 さて、この温泉は露天が広く湯温は熱い。
泉質はナトリウム・カルシウム−炭酸水素塩泉(重曹泉)。源泉の温度は51.5度、毎分400L(動力揚湯)の湧出量で成分はたいへん濃い。

 いつもの習慣でしばらく肩までつかり、芯まで温まり体がほてってきたら周囲の岩の上に座ってほてりを冷ます。

 この露天風呂は池のようになっているが、真ん中に何箇所かテーブル台となるような岩を配している。何の目的で作られているのかわからないが、時々その上にビール・酒とつまみをおいて、飲みながら温泉浴を楽しむ若いグループがいた。秋の紅葉がまぶしい週末などはそんな風景をうらやましく感じたものだ。もっともわたしのような下り坂の体には危険この上ないが・・・。

 最近この豊平峡温泉が出火したという話を聞いた。
 
一日も早い復旧を祈りたい。

<続く>

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