19章 中島公園の四季
<明確な季節の変化>
春3月、やっと戻ってきた北国の陽光は暖かいが、まだまだ肌に感じる風は冷たい。
公園西側にたたずむ「日本庭園」の開園は4月下旬ということだから、未だ中島公園は冬の残り香を漂わせている。
春は公園内の鳥たちの動きから、その訪れを知ることができる。鳩が元気よく餌をあさっているのを尻目に、鴨はもっとも行動的に、冷たそうな池の中を勢いよく泳ぎまわっている。
春の初めに2度ほど鴨の親子に遭遇したことがある。親のあとを追って、子鴨が懸命に池上を泳ぐ。航跡が一本の線になる。愛くるしい光景があった。
中島公園の池から振り返ると目に入るのは、お世話になったマンション「ドミ中島公園」。一生忘れることのできない豊かな思い出を残してくれた。独りよがりかもしれないが、(ここは日本で一番恵まれた環境ではなかろうか)と感じたあの頃の思いは今も変わらない。
何といっても中島公園という札幌一、北海道一の素晴らしい公園が、我が家の庭のように隣にあったこと。心ある札幌人からも「本当の一等地で、今後こんなに環境に恵まれたマンションはできっこない。」と評価をいただいた。
明治天皇に供したという白亜の「豊平館」は晴れやかな華燭の典で賑わい、「ホテルアーサー」は屏風のように聳え立ち、権威ある重厚な「パークホテル」も威容を誇る。
後ろを振り返れば遠く藻岩山が未だ雪を抱いて静かにたたずみ、すぐ近くの木立の先に新装なった音楽堂「KITARA」が全容を現した。
穏やかな休日の午前、日溜りのベンチに座り公園をスケッチする。この光景ともあとわずかでさようなら。繰り返すが、得がたい環境であったとしみじみと感じている。この感覚は最初にここに来たときと変わらず、今も新鮮である。ビバ!中島公園!
中島公園の木々たちも、細かく観察すると枝の先に緑をつけてつぼみが膨らみ始めている。ねこやなぎや桜、他に名前も知らない背丈の低い潅木たち。一日一日とエネルギーを蓄えているようである。

<中島公園の春夏秋冬を点描>
< 春 >

春は雪解けとともに遅れてやってくる。
うららかな陽光の中、木々が新しい芽をふくらませ、草花も一斉に萌えはじめる。つつじやバラが赤や紅の華やかな色をつけるかたわらで、近隣の小学校の遠足か、児童たちが画用紙を広げスケッチを始める。
フラワーフェスチバルでは鼓笛隊が勇ましく行進する。花の市や蚤の市が開かれ、明るいにぎわいを見せる。

北海道の人は花を大事に育てる。
1年の半分は雪と寒さとの戦いで、家の中に逼塞する生活が続くだけに、暖かさがやってくると屋外に咲く花を愛でる。
春先に開催される花の市にはさまざまな鉢植えの花卉が中島公園いっぱいに並ぶ。ペチュニアやマリーゴールド、ミニバラが花知らずのわたしにも花心を植え付けてくれた。
おかげで一人暮らしのわたしのサンルームは30を超える鉢花で満たされ、毎日の水遣りが日課となった。二階の住人のベランダには、暖かい時期を通して深紅のサフィニアが咲き誇っていた。
< 夏 >

夏はポプラやアカシアが大きな葉をつけて思いきり自己主張をする。
そのしるしに白い綿毛を飛ばす。公園の綿毛は舞って町の中を浮遊し、吹き溜まりに白い塊を作る。まるで夏の雪のようでもある。

冬から春にかけて緑の少ない疎林は、いつの間にか鬱蒼とした森に変身する。エルムの緑陰が絶好の読書の場所となる。
公園の池も家族連れでいっぱい。 そこここでお弁当が広げられ、家族の笑顔が溢れ、憩いの広場と化す。子供たち主体のカーニバルが開催され、元気よくマーチングバンドが三列縦隊でのし歩く。そういえば北海道マラソンのゴールもここ中島公園だ。

そして、8月もお盆を過ぎると一気に秋の気配が漂い始める。
ボート乗り場の売店ではソフトクリームにかわって、スィートコーンを焼いた懐かしい香りがプーンと鼻を刺激する。
< 秋 >

秋は紅葉が良い。
池畔の楓や紅葉がきれいな色をつけ、陽光がさしたときの鮮やかさはまるで極楽の世界。
寒さが厳しいだけに紅葉の色も濃い。また枯れ葉の中をさくさくと散歩するのもしっとりとした趣がある。白亜の豊平館は結婚式のめでたさに包まれる。
古来歌に詠まれた秋の夕暮れ、池畔の大銀杏はすさまじい赤色で生命の執念を燃やすが、池の漣はいかにも寒々しく人々は家路を急ぐ。11月に藻岩山が初冠雪すると、冬はすぐそこにやってくる。家々は冬の準備にとりかかる。

< 冬 >
冬は純白の雪。
鴨々川の鴨の風情やすっぽりと真っ白い雪に覆われた公園の姿はもっとも印象深い。
師走の吹雪の夜、木々は寒風に揺れながら我慢強く朝を待つ。
しんしんと牡丹雪が降り続く公園は完璧な静寂の世界。時おり枝に溜まった雪がどさっと落ちる。その枝のしなりの音までが聞こえる。
年を越すと陽光がやってくる。冬晴れの白銀の公園は神々しく輝く。
陽だまりのサンルームから眺める公園にまもなく春がやってくる・・・。

<続く>

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