15章 支笏湖
<<静寂の湖・支笏>>
支笏湖は札幌から真駒内を経由して50キロほど南にあるカルデラ湖である。(地図)
支笏・洞爺国立公園として洞爺湖と併称されるほど全国的に知名度は高い。札幌からの距離は支笏湖のほうが近いのだが、洞爺湖と比べると華やかさに欠ける。これは道路網の整備や観光資源の開拓など、明治以降の開発の過程によるところが大きいのだが、大きな温泉を持たないという理由も影響している。
東側の湖畔に10数軒のホテルと土産物屋が集積しているのが唯一の町で、周囲42キロの湖畔のほとんどは寂寞としている。
透明度25m、年間平均水温3.6度、日本一水質の冷たい不凍湖。
暖かい季節には釣り人が繰り出して湖畔で名物のチップ(ヒメマス)を釣る姿が風物となっているが、それとて一部の好事家の楽しみでしかない。
また北に恵庭岳、南に風不死岳、樽前山という1,000m級の名山を控え、札幌から近いという理由もあって登山を楽しむ熟年者は多い。
<サッポロから1時間のドライブ>
わたしは転任直後の5月の休日、初めて1時間ほどの国道453号線のドライブを試みた。
札幌の南部、真駒内や滝野を抜けてしばらく走ると、うっそうとした原生の新緑に包まれる。
街道に沿って真駒内川の雪解け水がほとばしるさまは新鮮な感動を与えてくれた。山が迫ってくると両側の沢から、冬の間に溜められた伏流水が道路に流れ出す。
春の太陽がきらきらと輝きすれ違う車もほとんどない森林帯のドライブは快適そのものであった。

さて、湖畔に着いたときの支笏湖に対する最初の印象は・・・・静かだが、漠として寂しいというもの。
人の気配を感じない。透き通った水はいかにも冷たそうで、湖の中に吸い込まれたらそのまま戻ってこられないという恐怖感すら感じた。
東京の雑踏と喧騒の中に身をおいて、満員電車の通勤や夜な夜なの同僚との付き合い酒に毒されていたわたしにとって支笏湖の寂しい印象は当然の感覚であったかもしれない。
環境になじむにはある程度の時間が必要なのだ。しかしこの問題は簡単に解決した。もともと静岡の田舎で育ったわたしの本性は田舎人。海・川・山には限りない愛着がある。北の台地の自然になじむのにたいした時間はかからなかった。
北海道の自然に親しむにつれ寂しいという感覚は薄れていき、むしろ落ち着いた自然を堪能しようとする欲求が高まった。この自然を思い切り楽しもうと・・・。
以来、幾度となく手ごろな支笏湖探訪を繰り返した。
<夏はキャンプでにぎやかに>
支笏湖は6月になって初めてにぎやかになる。
海の遠い札幌の若者がこの湖の上で水上スポーツを楽しむ。北側の湖畔・ポロピナイに簡易のプレハブが立ち、駐車場は4輪駆動のRVで埋められる。7月、キャンプ場にはテントが張られ、野外炊事場も大繁盛、こぞって若い夏を謳歌する。マリンジェットを走らせ、あるいはシーカヤックに乗り、ウインドサーフィンが風を切って走る・・・。
ポロピナイから湖に沿って15分ほど走らせると支笏湖最大のキャンプ場『モラップ』に着く。こちらは収容能力が高いため、学校の林間学校や、グループや家族のキャンプに利用される。子供の姿が多い。それぞれが北国の短い夏を楽しむのである。
<純白の支笏湖>
太陽が輝き暖かな息吹が北の台地にやっと戻る春3月、東京へ帰る先輩を千歳に送る途中、支笏湖を経由したことがあった。ポロピナイの湖畔は夏の賑わいを忘れ、残雪で真白く人の足跡すらない。穢れなき清浄、静寂の世界。太陽は中天にいて3月の柔らかい日差しを送っている。
この先のビジネスに対し結束を深める言葉を交わしたこと以外記憶にないが、このときの情景は頭の隅にこびりついていてはなれない。
しばらく沈黙の中に身をおいて寂寞の湖をあとにしたが、運命の中にある災いを洗い流してくれたかの感情を覚えた。
千歳川に沿って空港に向かう両側のダウンロードの光景も春らしくすがすがしいものであった。
四季折々の支笏に思い出は深い。
<続く>
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