10章 摩周湖
<<摩周湖:神秘の湖>>

独特の美しい風景から「神秘の湖」と呼ばれ、道内でも指折りの観光地摩周湖。北海道に来たからには、誰もが一度はその神秘のベールを覗いてみたくなる。
春先の摩周は霧が多い。
釧路での仕事を終えた週末、久しぶりに摩周を見たくなった。単身生活の気楽さであり、思いつけば実行あるのみ。釧路から車を駆った。
釧路湿原の東側を北上し弟子屈ヘと抜ける道は変化に富み、湿原のさわやかな雰囲気を楽しめる快適なドライブコースだ。
曇りがちの弟子屈を右に折れ、牧場と針葉樹林の中を摩周湖に向かう。山道を登り始めるとあいにくの霧雨が降りだした。
摩周周辺の天候は常に不安定でこれが『幻想の霧』の原因となっている。
右に左にカーブを切りながらたどり着いた今日の摩周湖に、やはり細かな霧雨が流れていた。残念ながら周囲一面は煙雨の中にあり、湖面はすっぽりと深い霧におおわれていた。
「昨日も来たんだけど、雨でまったく見えない。今日もこの天気じゃ!」「まったく、ついてないよなあ!」と団体客が嘆息をついていると、突然、不可思議な一陣の風が吹いて、湖面を覆っていたガスがスーっと消えていった。
「あっ、見えた、見えた、見えた。」と感動の声があがる。同時にみんなで拍手喝さい。「運が良いんだ。」「神風だ。」と先ほどのため息はどこかに飛んでしまい、歓喜の声が沸き起こった。
「早く、カメラ、カメラ。」あわただしく整列し、あわただしくカメラのシャッターが切られる。みんなの顔が、つい先ほどまでと違って晴れ晴れとしている。
それらの言葉の中に懐かしい訛りを聞いたので、「ひょっとして静岡からいらしたのでは?」と、声をかけてみた。
「ええ、よくわかりますね。富士から来たんだけど。」という返事が返ってきた。
故郷の訛りはどこにいてもすぐにわかる。
そして摩周は、再び、あっという間に霧の中に消えていった。
<厳寒の冬、樹氷の摩周>
厳冬期、雪と氷に覆われた湖はいっそうの輝きを増す。摩周湖の水は日本一の透明度を誇り、氷の上から湖の底まで見通すことができる。
また、湖畔には、日本では冬の北海道でしか見られないワタリガラスをはじめ、オオワシやエゾシカなどの野生動物が生息している。
かつて冬の摩周湖は、積雪のため人の入る余地はなかった。
ところが最近になって道路が拡張整備され、除雪車がはいるようになって状況は変わった。車が通行可能にになったため、トラベルエージェンシーは「樹氷の摩周湖」の企画を積極的に売り始めた。
オホーツク流氷見学とあわせたこの企画は静かなブームになりつつあるように思う。
厳冬期の2月、摩周を訪れる機会があった。
何回も来ている観光シーズンとはまったく違う、人一人いない摩周の湖。
マイナス10度以下の世界で、雪に覆われた登り道の左右の木々は樹氷に固く閉ざされている。上りついた展望台駐車場の雪の上には人の足跡も無い。すばらしい静けさ、純白の世界は神々しくすらある。
晴天に恵まれた真冬、雪と氷の摩周をこうやって静かに眺めていられることの幸せを実感した。
圧巻であった。去り難さと戦いながら山を降りた。
<続く>

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