3章 小 樽

<小 樽・・・復活の町>

小樽は倉庫の町。かつては倉庫街が豊かさの象徴であった。
歴史を紐解けば、小樽は北海道開拓の最も重要な港湾として、明治政府に公認され発達を遂げてきた。明治2年明治政府が開拓史を置き、正式にそれまでの地名・蝦夷を北海道と認定したときに「小樽」の名称も「オタルナイ」にとって変わった。
明治5年小樽郵便局開設、明治7年小樽ー札幌間電信線路完成、明治13年手宮(小樽)ー 札幌間鉄道開通、明治26年日本銀行小樽支店開設というから、開発の時代は足早であった。
道内の穀物はすべてここに集荷し、北海道の市場を支配するまでに発展する。明治中期以降中央の金融機関はこぞって支店を開設。金融の町、北のウォール街と呼ばれた所以である。文人墨客もパトロンを求めてこの町に滞在する。明治44年には小樽商科大学も設立。正に商都、いい時代であった。
しかし繁栄の時代は暗転する。不景気、恐慌、凶作、やがて町は落ちぶれ、倉庫にはクモの巣がはり、運河は汚れ悪臭が漂う暗い時代の象徴に。この50年だらだら下りの長い坂道を下ってきた。この間に北国の覇権は内陸の札幌に奪われた。
漂泊の詩人啄木は「かなしきは 小樽の町よ 歌ふことなき人人の 声の荒さよ」と詠んでいる。
しかし彼の小樽への評価はきわめて高かった。
| 「小樽に来て初めて真に新開地的な、真に植民的精神の溢れる男らしい活動を見た。小樽の人は四辺の風物に圧せられるには、余りにも反撥心の強い活動力をもっている。予は唯此自由と活動の小樽に来て、目に強烈な活動の海の色を見、耳に壮快な活動の行進曲を聞いて心の儘に筆を動かせ満足なのである」と、活気に満ちた街・小樽を回想している。 |

<北一ガラスと裕次郎記念館>
そして歴史は繰り返すのか、今また倉庫街が昔の勢いを取り戻した。倉庫はシックなビヤホールや民芸品の売場に生まれ変わり、レストランには観光客があふれ、運河は記念撮影の背景となり華やかによみがえった。
小樽といえば北一ガラス。ガラス工芸が町を変えた。アンアン・ノンノの特集が全国の若い女性を小樽に運び込んだ。北一ガラスに誘った。北国の冷たく澄みきった空気とグラスアートの世界、瑠璃色のかわいらしい造形物に女性の夢が膨らんだ。
北一ガラスが先鞭をつけたのか、小樽の町にはガラス工房や美術館が点在する。私は主として酒器を探すのだが、目的を持ってそれらの工房を探索するのは楽しい。ヴェネツィア美術館やオルゴール堂などメジャーな店はいつも混んでいてお土産を探すには便利だが、自分好みの小さな工房を見つけることに価値がある。(リンク)
もう一つの観光名所は裕次郎記念館。日活の全盛時代、昭和31年兄・慎太郎の芥川賞受賞作「太陽の季節」でデビューした裕次郎は瞬く間に時代のヒーローに。「勝利者」「俺は待ってるぜ」「嵐を呼ぶ男」「錆びたナイフ」「陽のあたる坂道」「赤い波止場」」など年間6-7本に主演し、一世を風靡した大スターであった。
その映画の背景に小樽がたびたび登場した。
当時のファン、今や時間とお小遣いをたっぷり余したSixty’sのオバチャマたちが、せっせと足を運ぶ。

<ニシン御殿・旧青山別邸>
いにしえ、富の象徴であったニシン御殿は高島の岬の突端に移築された。大勢が寝泊りしたという座敷の片隅に座り目を閉じれば、大海原に大漁旗が翻り、大網にニシンの銀鱗が跳ねる。耳を澄ませば、ヤン衆の勇ましい歌声が海の向こうから聞こえてくる。飯炊き女があわただしく動き回り、金満相の網元の高笑いが目に浮かぶ。

御殿の庭の高台から眺めた日本海は美しい群青の色。
そのニシン漁の網本「青山家」の別邸は御殿の手前を左に入ったところにある。大正時代の建築。
かの庄内は酒田のお大尽「本間家」に負けない意気込みで建てた、というから気宇壮大である。当時のニシン漁がいかに隆盛を極めたか、その贅を尽くした建物の細部から十二分に納得できる。
軒下の手彫り彫刻、うぐいす張りの廊下、書院造りの床の間、枯山水の庭など日本美の数々。母屋の床や柱は欅の春慶塗りで、欄間の竹、紫壇、黒壇には彫刻が施され、歴史的豪邸と呼ぶにふさわしい建築物だ。
さて、観光で小腹が空いたら寿司を食してみたい。
有名なすし屋横丁は著名店が並び、おいしいネタを並べてくれるが、値段がリーズナブルとは思えない。東京で食べるのとたいして変わらない。これでは何のための小樽かと思うわたしは、タクシーの運ちゃんに聞いたり友人情報を頭に入れて、あちこちを捜し歩く。
あった、あった、市場の片隅に安くて地物しか出さない良心的なすし屋さんがありました。食に関しては評価が高い北海道・小樽でさえ、探せばいろいろ出てくる。B級グルメはあくなき探究心をもって、食道楽を極める。
坂の町、古い石造建築の町、文学碑の町。復活の町。
<続く>

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