「あの鐘の音が札幌といふ町の精神です」(「石狩少女」森田たま より)
時計台のすぐ近く、黄色い看板が温かく迎えてくれます
時計台近くの「ベルン」は、会社の先輩たちが、40年以上もの長きにわたり世話になった老舗珈琲店です。
木枯らしが舞い始める11月末の夕刻、弥次さんに連れられて、今は地下にもぐって価値のある広さでどっしりと構えたその店に入りました。昭和35年の開業といいますから足かけ45年の歴史と、こだわりの珈琲の香りが、床や壁に染みついた店です。
オーナー・マスターの河合さんは、えんじ色のチョッキ姿で端然とカウンターに立っていらっしゃる。その温厚なマスターが手塩にかけて、それこそマスターの人生そのものを凝縮したような温かい店が「ベルン」です。世界遺産にも登録されたスイスの古都・ベルンから名前を取られたというセンスもただ者ではありません。
「おいしい珈琲を二つ、お願いします」と弥次さん。出てきた珈琲はやはり「ウインナー」でした。ホイップしたクリームを珈琲の上に厚く乗せて酸味と甘みのハーモニーを楽しめます。
5?歳になるわたしが知らないような、会社のはるかな先輩のみなさんが世話になった店なのです。その事実だけで、わたしにとっては他人事ではなく、おおいなる感動を得られるのです。
会社の歴史がそこここに息づいていて、はるか昔の日本の元気な時代に、儲かって仕方がないと得意満面であった先輩たちの顔が思い浮かぶのです。
歴史というのは多少の縁が意味を持ちます。不可思議な玉手箱のようなもの。玉手箱の中身はさだかでなくても、人の心の中に営々と生き続けていくのです。
北海道新聞の「札幌喫茶店グラフティ」に掲載された記事。
この店には札幌の山好きが集まってきます。
弥次さんのグループは、この5年間で北海道100名山の踏破を目指して活動してきました。そして今年の春先に99嶺までの山頂を極めたそうです。
弥次さんはおっしゃる。
「100番目の山は幻の山にしておきたい。その山は遠く険しくて人を拒む・・・永遠に登るべきではない!」このことばけだし名言といえます。そして意味が深い。人はみな100%を達成してしまったら、達成の喜びより空しさが先にたつのではないでしょうか。人間そのものがいつまでたっても完成するものではないのですから・・・。
「しかし深田久弥さんは迷惑なことをしてくれました。日本百名山などと名をつけられたために、本州からどっと人が押し寄せてきて、山は荒れ、屎尿処理なんかもたいへんで、山好きの北海道人は本当に憤慨しています・・・」
大雪をはじめとする美しくも気高い北海道の山々は、豊かな時代の象徴として、全国の山好きが集まってきます。
夏の山は銀座並みの混雑を呈するようです。人口密度の低い北海道で、人が多いことは喜びでもあるのでしょうが、多すぎるというのは困りもののようです。しかしそれを拒むことはできませんし、経済効果はあるはずですので・・・。
山を目指す大人のみなさんは、このことは重々承知かと思いますが、念のため、付け加えさせていただきました。
3章「恵迪寮」へ続く
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